大気水圏科学セクション

JpGU大気水圏科学セクションプレジデンシャルセミナー(オンライン)

[第10回]
日時:2026年2月17日(火) 17:00~18:00
講演者:竹内 望 先生(千葉大学 環境リモートセンシング研究センター 教授)
講演題目:息づく雪氷圏のダイナミクス~雪氷生態系が拓く新しい地球システムの姿
Dynamics of the Breathing Cryosphere: New Perspectives on the Earth System Revealed by Glacier Ecosystems
講演要旨:
氷河や積雪には、雪氷生物と呼ばれる寒冷環境に適応した特殊な生物が生息しています。極地や高山に分布する氷河や氷床は、単に物理的な氷の塊であるだけでなく、雪氷生物と相互作用をもつシステム、つまり「生態系」と見ることができます。北半球最大の氷河であるグリーンランド氷床は、数万年という時間をかけて雪氷が流動する巨大なシステムです。その膨大な時間をかけた旅路には、単に雪氷だけでなく、化学物質やダスト、そして微生物も共に輸送されます。近年注目される氷床の「暗色化」は、このような長期的・広域的なスケールで駆動する生態系の一面として理解することで、新しい姿が見えてきます。雪氷圏のダイナミクスを生態系としてみることで広がる、地球環境や地球史、地球外氷天体探査の新たな可能性について、お話ししたいと思います。

Glaciers and snowpacks inhabit specialized organisms adapted to cold environments, known as snow and ice organisms. Glaciers and ice sheets in polar and alpine regions are not merely physical masses of ice but can be viewed as systems interacting with these organisms—in other words, as “glacier ecosystems.” The Greenland Ice Sheet, the largest in the Northern Hemisphere, is a massive system where snow and ice flow over time scales of tens of thousands of years. Throughout this transport process spanning immense time, chemical substances, dust, and microorganisms are transported alongside the ice itself. The recently observed “darkening” of the ice sheet reveals a new perspective when interpreted as a facet of an ecosystem operating on such long-term and large-scale dimensions. Viewing cryospheric dynamics as an ecosystem offers new insights into deciphering Earth’s history and the future exploration of extraterrestrial icy worlds.

[第9回]
日時:2025年12月25日(木) 17:00~18:00
講演者:中村 尚 先生(東京大学 名誉教授/東京大学先端科学技術研究センター シニアリサーチフェロー)
講演題目:中緯度・亜熱帯域における大気海洋相互作用
─ その気候系における役割や異常気象との関連 ─
講演要旨:
嘗て中緯度・亜熱帯の海洋は,熱帯の大気海洋結合変動の遠隔影響や大気の内部変動を受けてただ受動的に変動すると認識されてきました。しかし,ここ20余年の研究により,暖流・寒流が合流する中緯度海洋前線帯がストームトラックと,それに伴う降水帯や西風ジェット気流の形成を促すことが分かってきました。一方,亜熱帯海洋東部の冷水域における大気海洋相互作用は,下層雲の放射効果を介して亜熱帯高気圧の形成に本質的に重要なことも分かってきました。さらに,日本周辺でも,黒潮,対馬海流域の季節的・長期的な水温上昇が暖候期の豪雨に与える影響や,北日本周辺海域の近年の海洋熱波が猛暑に与える影響が明らかになってきました。本講演では,こうした中緯度・亜熱帯における大気海洋相互作用の重要性について,最新の研究成果を交えつつご紹介します。

[第8回]
日時:2025年10月16日(木) 17:00~18:00
講演者:伊藤 進一 先生(東京大学大気海洋研究所 教授)
講演題目:全球中緯度海洋で中規模渦が支配する人類のタンパク源
講演要旨:
海洋の約25%を覆う中規模渦は,全海洋の約50%のクロロフィルを捕捉していると試算されています.中規模渦には,低気圧性渦と高気圧性渦が存在しますが,中心部に湧昇流を伴う低気圧性渦が生物生産の高い場所と認識されてきました.しかし,全球的な漁場分布と中規模渦の関係を調べると,異なる像が見えてきます.人類にとって重要なタンパク源をどのように中規模渦が生産しているのか,最新の研究結果を交えてご紹介できればと思います.

[第7回]
日時:2025年8月21日(木) 17:00~18:00
講演者:三枝 信子 先生(国立環境研究所 理事)
講演題目:気候変動と陸域生態系
講演要旨:
気候変動は、気温や降水量の長期的な変化や、極端な高温・豪雨・干ばつなどの頻度や強度の変化により、陸域生態系に重要な影響を与えます。同時に陸域生態系は、光合成により大気中の二酸化炭素を吸収することで地球温暖化を緩和する働きも持ちます。2050年ネットゼロに向けて気候変動対策は急務ですが、大規模な植林やバイオマス燃料作物増産による吸収源の強化は、食料生産・水の確保・生態系保全などと競合します。地球の気候を安定化するには、温室効果ガスの排出削減と吸収源強化の野心的な対策を実施するとともに、気候変動の影響を地球規模でモニタリングし、対策の効果の確認や、想定外の変化の検出を行うことが不可欠です。

[第6回]
日時:2025年4月4日(金) 17:00~18:00
講演者:阿部 彩子 先生(東京大学大気海洋研究所 教授)
講演題目:気候モデルで探る氷床と海洋 − あり得た幾つかの「今」
講演要旨:
現在の気候のもとでは、南極とグリーンランドに氷床があり、大西洋と南大洋で深層まで海洋が沈み込んでいます。しかし、過去には、氷床の消長や海洋深層循環の強弱が繰り返されていたことが知られています。将来予測のために開発された大気海洋結合の気候モデルや氷床モデルを用いた古気候モデリングによる研究を紹介しつつ、今の状態が必然なのか?他の状態も取り得たか?、議論の材料が提供できればと思います。

[第5回]
日時:2025年1月8日(水) 17:00~18:00
講演者:石井 雅男 先生(気象研究所気候・環境研究部 主任研究官)
講演題目:太平洋のCO2吸収とその変動
講演要旨:
地球温暖化・気候変化を引き起こしている産業活動によるCO2排出.排出された多量のCO2は地球表層の活発な炭素循環に乗り,およそ1/4が海面でのガス交換を通じて海に吸収されています.では,CO2は海のどこで吸収され,どこに蓄積されているのでしょうか?
海のCO2吸収は,気象,海洋物理,海洋生物地球化学の諸現象が深く関わる現象で,それらの変動は海のCO2吸収にも大きな影響を及ぼします.海のCO2吸収の実態とメカニズムについて,太平洋を主な対象に最新の研究成果を交えて紹介します.

[第4回]
日時:2024年9月5日(木) 17:00~18:00
講演者:大手 信人 先生(京都大学大学院情報学研究科 教授)
講演題目:日本の生態系ダイナミクスを研究する楽しさ
講演要旨:
僕がここでいう「生態系ダイナミクス」というのは,概ね物質循環論的な動態のことで,たとえばササラダニの行動生態までつぶさに考える分解能はありません.ですが,生態系というシステムは(例えば,森林生態系ですが)ササラダニが落ち葉を分解する.というような生物の顔の見える仕組み包含しているので,動態をモノの動き(流れと貯留)だけで記述すると,話はあまり面白くありません.
一方で,森林にいるあらゆる生き物の行動生態が解りさえすれば生態系ダイナミクスが記述できるかといえば,それもそんなことはなくて,地球物理学的・化学的なモノの動きが生き物の来し方行く末を左右しますから,結局,生態系の動態を理解するには,理科4科目全部でことにあたる必要があることになります.日本の森林生態系のことを調べていると,このことを痛感します.これは日本の気候・水文環境,地質・地形学的環境が,グローバルに見て結構ユニークだからです.そのことをお話できればと思います.

[第3回]
日時:2024年4月3日(水) 17:00~18:00
講演者:竹見 哲也 先生(京都大学防災研究所 教授)
講演題目:メソスケールに組織化する降水系の動態
講演要旨:
積乱雲のような降水雲は,環境の安定度・湿度・風速場の条件の違いに応じて,しばしばメソスケールに組織化し,線状や団塊状など様々な形状に集団化します.線状に組織化する場合でも,移動性のスコールラインや停滞性の降水系があります.日本では,停滞性降水系が発達すると,降水雲が繰り返し発達して同じ地域に降水が生じることで,時に線状降水帯と呼ばれる豪雨域が形成されます.線状降水帯は,特に集中豪雨による災害をもたらす危険性が高いことから,その予測精度の向上の取り組みが進められています.こういったメソスケールに組織化する降水系は,どういった大気条件で,どのような形態に組織化し,どの程度の降水をもたらすものなのでしょうか?そもそも,なぜメソスケールに組織化するのでしょうか?こういった点について,最新の研究成果を交えて紹介いたします.

[第2回]
日時:2024年2月29日(木) 17:00~18:00
講演者:日比谷 紀之 先生(東京大学 名誉教授/東京海洋大学 客員教授/海洋研究開発機構 招聘上席研究員)
講演題目:月と海底地形が織りなす深海乱流の世界
講演要旨:
表層からの熱を下方に伝え、深層水を温めて鉛直に引き上げる役割を担う深海乱流混合は、長期気候変動を支配する深層海洋循環 (MOC) と強くリンクしています。本講演では、このMOCモデルの高精度化に向けて解明してきた研究結果、例えば、主密度躍層深度での乱流混合 (far-field mixing) 強度の緯度依存性とそのグローバルなマッピング、強い潮流により発生する内部風下波の砕波に伴って粗い海底凹凸地形上に形成される乱流混合 (near-field mixing) の鉛直構造とその新しいパラメタリゼーションなど、月と海底凹凸地形が織りなす深海乱流混合の実態について最新の研究成果を紹介します。

[第1回]
日時:2023年11月2日(木) 17:00~18:00
講演者:沖 大幹 (東京大学 大学院工学系研究科 教授)
講演題目:地球規模の水循環における人間活動の痕跡
講演要旨:
大気水収支法を用いた地球規模の水循環推計や世界の大河川の長期データ解析に見いだされた人間活動の痕跡の検知、貯水や取水といった人間活動を考慮したグローバル陸面モデルの構築と陸水総貯留量の変化から推計された海面水位変動への影響などについて紹介し、大気と海洋を結ぶ陸面水文研究の近年の発展の一端に触れていただければと思います。