固体地球科学セクション

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固体地球科学の展望

    
固体地球科学の新しい展開には,新しい観測・分析方法あるいは新しい解析法や解析機器が,その都度大きな役割を果たしてきました.例えば,プレートテクト ニクスによるブレークスルーは,海底計測や深海掘削技術の進展に大きく依拠しています. この間,全地球観測としてHi-net,GEONETに加え USArrayなどの稠密な地震や地殻変動観測網の展開が進んできています.さらに,技術開発により深海底において海底機動観測装置,海底ケーブル観測シ ステムなどによる高精度な地震観測が可能になり,地殻・マントル・コアとその層境界に関する知見を飛躍的に向上させました.また,ニュートリノやミューオ ンなどの素粒子を用いた新しい地球観測の動きが進んでいる一方で,地球深部探査船「ちきゅう」をはじめとする深海底掘削技術が大きく進歩し,未知の海洋底 深部における堆積物やその基盤をなす海洋地殻さらにマントルまでの地質調査・構造探査・物性解析・試料採取の新たな手法が展開されつつあります.

計算機能力の格段の進展は,地震発生シミュレーションなど、地球内部で生起する現象の再現や地震波トモグラフィによる地球内部構造の精密な把握を可能にし ました.さらに熱力学や第一原理計算による複雑な固溶体を含む高圧鉱物の相関系や超深部物質の物性シミュレーションの重要性が高まっています.

超高圧高温発生技術と放射光利用・中性子をはじめとする量子ビーム利用技術の格段の進歩により,地球の内核から外惑星内部にまでいたる条件での実験が可能となりました..

微量成分元素・同位体比分析の高精度化と微小領域分析手法の進展は,新しい元素や同位体を用いた物質収支の検討を可能にしました.その結 果,各時代の火成岩,堆積岩,変成岩の解析に基づいて,コアから地球表層にいたるまでの広範な固体地球の成因・進化・物質循環および地表環境変動の理解に 大きな展開をもたらしつつあります.

固体地球科学の中で,近年めざましい進展を遂げた分野に,地球内部不均質構造の研究があります.地震波トモグラフィによる地球内部の不均質構造の描像は固 体地球科学の幅広い分野に多大なインパクトを与え,描き出された不均質の理解に向けて,様々な分野での研究が展開されています.例えば地球内部物質科学の 分野では,進展した高圧高温実験技術を武器に,マントルからコアにいたる物質像を構築し,そのダイナミクスの理解を深めつつあります.

電磁気観測に基づく地球深部の比抵抗構造のイメージングはマントル遷移層の含水量推定に利用され,さらに高圧物質科学との共同作業に基づいた地球内部の水循環のダイナミクス解明へと展開されつつあります.

地球内部のイメージングによって,プレート沈み込みとマントル上昇流からなるマントル対流の大まかな描像が提案されたものの,地球のリソスフェア構造とその境界地域の実体に関わる観測・物質研究は大きな発展の緒に就いたばかりです.

例えば,アセノスフェアの状態は,観測網の充実した陸域付近の観測によってようやく“見る”ことが可能になったばかりです.観測網の薄い 海嶺および深海底におけるリソスフェアーアセノスフェア境界の理解はプレートテクトニクスの根幹に関わる問題として今後明らかにすべき課題であり,その解 決には観測科学と物質科学の共同作業が欠かせません.

リソスフェアの実体についても,解明すべき点は多い.近年の地震探査技術やトモグラフィ手法の進展によって,マントル上部―地殻下部の不均質構造 がイメージングされ,大陸縁辺部での地震発生,アクティブテクトニクス,マグマ発生の理解が進みつつあります.しかし,プレートの衝突帯・収束帯・活動的 大陸縁における大陸地殻の形成と付加・解体の過程に関する理解には,高精度地球物理観測に加え,野外調査を含む地質・岩石・鉱物の記載に基づいた研究との 共同作業が不可欠です.また,暖かい上昇流(プリューム)の構造を調べるのは冷たい領域を調べるのに比べてより困難で,プリュームの起源についてはまだ不 明の点が多く残っています.特にこの分野では地球化学との協力が必要になってきます.地球化学との協力は,地球の理解に時間軸を入れようとする際に特に重 要です.

このように固体地球科学の領域は、多方面にわたり地球惑星科学の中で最も広い分野をカバーしているのです。この分野の活動度は、地球惑星科学のす べての分野にも大きな影響を与えます。この固体地球科学セクションに多くの研究者が集まり、これまでの学会の枠を超えた柔軟で総合的な固体地球科学を生み だしましょう。この固体地球科学セクションは固体地球科学の分野で世界をリードし、世界に向けて私たちの科学を発信する場です。固体地球科学の新たな発展 には、広く地球表層から地球中心にいたるまで、固体地球の動きを総合的にとらえることがますます必要になっています。クロスデイシプリナリ・インターデイ シプリナリな研究は今や不可欠です。固体地球の理解が他のセクションの研究活動と結びつき近い将来、全地球システムが明らかになるでしょう。地球を太陽系 の一つの惑星と捉え、地球の惑星としての一般性と特殊性を明らかにし、比較惑星学として固体地球科学を創造することもできます。このような融合的な幅広い 視野に立った研究と教育を行うことは、このセクションの目指すところです。固体地球科学セクションを中心に取りまとめた固体地球科学の夢ロードマップを以 下に示します。皆さん、共に新しい固体地球科学を創造しましょう。